俺たち3人は吹奏楽部、部室へ向かって走り出した。
部室に着くと、ドア横の掲示板に『入部希望者は音楽室へ集合写真して下さい。』と書かれたポスターが貼られていた。
3人ともに顔を見合わせ、『よし、行くか!』と無言の合図を交わし、音楽室へ向かった。
コンコン!
「失礼します!」
大きい声で挨拶しながらドアを開けて音楽室へと入った。
すでに何人かの生徒が来ていた。
顧問の東山先生がこっちに気づいて、席へと手招きした。
この部屋の第一印象、全然教室っぽくなかった。机はないし、まるで舞台の上みたいに三段に段差がある。そこに椅子だけが並べられていた。
壁は小さな穴が無数に開いた正方形のパネルがはめ込まれたような感じ。これって放送室の壁と同じやつかな? なんだかレコーディングスタジオみたいな部屋だ。
ポカーンと呆気に囚われていると、東山先生が説明を始めた。
「3時半になったし、とりあえず始めようか。」
そう言って、集まった俺たちの希望楽器を確認していく。
俺はもちろんサックス。
村上はトランペット、裕はトロンボーンを選んだようだ。まあ、2人とも俺と同じで小学校の時にマーチングバンドを経験してるから、同じ楽器を選ぶのは当然といえば当然の成り行きだな。
「はい、それじゃあここにいる各パートリーダーに従って30分ほど基礎を学んでもらう。その後、呼ばれた順にここへ戻って来て俺と部長、副部長の前で音を出してもらってそれで判断させてもらう。」
そう説明されたあと、何人かの先輩たちの自己紹介が始まった。
「俺は3年で部長をしてる堂本剛や。」
「俺は3年で、副部長の三宅健です。」
「俺は2年で、サックスパートリーダーの岡田准一いいます。
他にトランペットやトロンボーンなどのパートリーダーの自己紹介があり、一通り終わると…
希望楽器ごとのグループに分かれてパートリーダーの指示に従うことになった。
サックス希望者は俺を含めて4人いる…残れるのは2人…。
(絶対に勝ち取ってやる!)
「ほなパー練室に行こか。」
岡田先輩が俺たちを促した。
十人十色のごとく、俺たち4人は岡田先輩にそれぞれ挨拶を交わした。
そして岡田先輩のあとをついて行く。
ドアのプレートに『サックス練習室』と書かれた部屋の前に来た。
ノックもなしにいきなりドアを開ける岡田先輩。
すると、突然大きな音色が聞こえたと思うなり、圧倒的なメロディーが耳に飛び込んできた!
♪??♪??♪???
思わず音のする方を見る。
ゴクン!
唾と息を同時に飲み込んだ。
ー 大野君が吹いてるんだ!ー
なんて綺麗な横顔なんだ…。
その口元から奏でられる、力強い、ときに繊細な、そしてまた激しいメロディーライン…。
いつまでも見ていたい、聞いていたい、と夢心地になりかけたとき…。
「ほなこっち来て始めよか!」
岡田先輩の声が現実へと連れ戻した。
まず、サックスの吹き口である部品の説明をしてくれた。
名前は『マウスピース』見た目は黒いプラスチックのよう。それにはめる『リード』と呼ばれる竹を削ったような板? 見た目はアイスを食べるときの木のスプーンみたい。そしてマウスピースとリードを固定するための『リガチャー』と呼ぶと金具。マウスピースに付けたリードを上からくぐらせて、二本のネジで締める。
これで吹き口の準備が完了する。
マウスピースを金属で出来た楽器本体に射し込んでようやく完成となる。
まずは、マウスピースだけで音が出るように練習する。
リードと呼ばれる部分を下にして、下唇を下の歯に重ねるように巻き込んで、その状態で口にくわえて、上の前歯二本で噛むように挟む。
これがなかなか難しい…。
しかも下唇の裏側に下の歯が当たって痛い。
単純に、くわえただけで音が出るリコーダーのようにはいかない。
マウスピースで音が出たら、『ネック』と呼ばれるマウスピースと本管をつなぐ、カーブのかかった短い金属を挿し込む。
今度は、マウスピースとネックの繋がった状態で音が出るようにする。
そして、いよいよ三つのパーツを繋げてサックスが完成する。
さて、これで音が出せなきゃ話しにならない。
俺は限られた時間、大野君が奏でる演奏を聴いていたいのをグッと堪えて、ひたすら練習をしていた。
ガチャッ。
「次サックスの番だって。」
副部長の三宅先輩の声が部屋にこだました。
ビクッとして、緊張が身体中に走った。
(運命の瞬間がきた!)
俺は自分を奮い立たせた!
続く