Amazon |
―――S52年世代。『〇代目 新宿ジャックス』。後に『ジャックス』から引き連れていたS53年世代大田区の久我(仮名)や葛飾区の原松(仮名)など、各地域で5本の指に入る強者メンバーとともにS53年世代の『〇代目 渋谷宇田川警備隊』に移籍。
『京北商業高校1年B組』 ヒジカタ(仮名)。
―――2017年。8月某日。NEO東京。
世間ではやれお祭りだ、花火だ、それバーベキューだとお盆休みで浮かれている中、私は1人わびしく小学生の頃から通い詰めている練馬のB級グルメ、兼地元の”情報屋”としての貌も持つ中華料理屋の『七福』に電話をかけていました。
「・・・・」
ふと前を見ると、目の前の横断歩道をチャリマツ(自転車に乗ったお廻り)が一台横切っていったので、私はスマホを操作し、携帯をスピーカーモードに切り替えました。
「・・・・」
無論、このようなくだらない違反で連中から白昼堂々カツアゲされる訳にもいきません。
「はいっ。『七福』ですっ」
おやじの声がスマホのスピーカーを通して聞こえてくるのとほぼ同時に目の前の信号が青になり、私は軽トラ―――アーム・ストロング号のアクセルを踏み込みました。
Amazon |
「あ、もしもし?そういや今日って、みんなお盆休みだけどやってたっけ?」
名も名乗らずにそういうと、おやじは電話の相手が一瞬で私とわかったようで、すぐにくだけた口調になりました。
「やってるよ〜。来いよ〜」
「あっ、そう。そしたらねえ、今向かってっから、お持ち帰りで焼肉定食の大盛りと五目焼きそばの大盛りお願いしや〜すっ」
「は〜い。作っておきま〜す」
相変わらず、よほど暇だったのか、おやじはひどく上機嫌で私からの注文を承りました。
―――それから15分後。
いつものように『七福』の真ん前にアーム・ストロング号を”ヤクザ停め”すると、私はウルフマンのサングラス越しに鋭い視線を周囲に走らせながら、つかつかと薄汚れた店内に入って行きました。
6,480円 Amazon |
地元の仲間の1人が家族みんなで今日から新潟に旅行に行ったという、くそしょうもない情報とともに、『七福』の焼肉定食の大盛りと五目焼きそばの大盛りをゲットした私は右のウインカーを点滅させて車を発進させました。
「ふー」
発進させて間もなく、大きなため息をつきます。
一体どこでどう情報をキャッチしたのか、便利屋としての仕事量が最近になって激減している私の情報をいち早くキャッチしていた『七福』のおやじ。
恐るべき情報網。
流石は地元屈指の情報屋。
我々の母校である『練馬・カイシン2中』を主とする、この辺りの中学の歴代のワルたちの舌を虜にしている、あのひどく中毒性のある秘伝のたれの影響か。
まるで薬物中毒者のように常連と化した客から仕入れていったそうしたくだらない情報はおやじによって尾ひれがつけられ、盛るに盛られ、瞬く間に練馬中に拡散されていきます。
「・・・・」
いずれにしろ、毎度、毎度、様々な形で幾重にも同時進行で押し寄せてくる”人生”という名の試練。
―――その名も、タムラ稼業。
物心がついた頃には容赦なく始まり、38歳のおっさんになった今でも内容を変え、規模を拡大し、一向にとどまる気配がありません。
「・・・・」
―――まさか、この命尽きるまで永遠に続くのではないか。
不吉な予感が脳裏を掠めます。
「チッ」
そうです。
仕事量が激減している大きな理由のひとつは現在抱えている、あの”※特殊案件”のせい。
(※前回までの記事を参照)
あの件を丸く収めるまではこれ以上の無用な虎舞竜(トラブル)、つまりタムラ稼業を最小限に抑える必要があり、人一倍警戒心が強く用意周到な私は自身が代表を務める『カイシン便利サービス』のホームページを一時的に閉鎖しているのでした。
「チッ」
自分で蒔いた種とはいえ、現在のくそのような境遇に腹が立ち、私は再び舌打ちをしました。
とはいえ、泣き言などいっていても仕方ないので考え得るありとあらゆる手を尽くし、この極めて面倒で厳しい状況をどうにかしてひとつひとつ打開していかなくてはなりません。
そう。
これまでもそうしてきたように・・・・。
「・・・・」
車窓からはこれから何処かへ遊びに行くのか、華やかな浴衣を着た女子高校生くらいの少女がふたり通り過ぎて行くのが見えました。
息を吐きます。
―――私の高校生時代。
脳裏に浮かぶ記憶の扉。
あの頃は自分がまさか40近くのおっさんになってもこうして様々な”タムラ稼業”に追われる日々を送っているだなんて夢にも思いませんでした。
「・・・・」
―――時は1990年代半ばから後半。
それは今からもう20年以上も前の話。
あの頃はチーマーと呼ばれる不良集団の全盛期でした。
そして、一見すると同類だと思われがちな暴走族もただの暴走集団ではなく、それは極めて攻撃的で危険な愚連隊と化していた都内全域が混沌としていた時代。
1,995円 Amazon |
Amazon |
2,480円 Amazon |
―――オヤジ狩り。
―――腰パン。
―――コギャル。
―――援助交際。
―――ルーズソックス。
そうした言葉が一般的にも知られるようになってきたのもこの時代。
都内各地にはそれこそ前述した、チーマーや暴走族を始めとする大・中・小・様々なグループが乱立し、そうした中で武器有りの刺し喧嘩や大人数によるボコリは当たり前になっていく傾向にありました。
「・・・・」
―――あの頃のタムラ稼業。
大人になった今とはまた違った意味で辛く、そして面倒な出来事の繰り返しでした。
こちらが望もうが望むまいがひょんなことから次々に現れてくる敵。時には時期を同じくして同時進行でいくつかの勢力、相手を掛け持ちしなくてはならないこともザラでした。
ダークな青春。
血塗られた神話。
「・・・・」
『七福』からの帰り道。
そのまましばらく走っていると、谷原の交差点の辺りで目白通りが混んで来ました。
「チッ、マジかよ・・・」
私は再び大きなため息をつくと、頬杖をつきながら自身の高校生時代に思いを馳せ、暇つぶしにゆっくりと記憶を辿ることにしました。
....to be continued☆